工場で熱中症対策を怠った場合の罰則とは？義務化の内容や予防策を紹介
近年、職場では熱中症による事故が後を絶ちません。
厚生労働省によると、令和6年の熱中症による死傷者（死亡・休業4日以上）は1,257人にのぼり、その約4割が製造業や建設業で発生しています。
令和4・5年に発生した死亡災害では、初期症状の放置や対応の遅れが多く見られました。
これを受け、重篤化防止のために令和7年6月から労働安全衛生規則の改正が施行され、熱中症対策の実施が企業の義務となりました。
この記事では、罰則や義務化された熱中症対策の内容、そして工場が整備すべき体制について解説します。
熱中症対策を怠った場合に科せられる可能性のある罰則
労働安全衛生法は、企業が労働者の安全と健康を確保するために必要な措置を講じることを定めた法律です。
その具体的な運用基準を示しているのが労働安全衛生規則であり、現場で守るべきルールが細かく定められています。
令和7年6月の改正では、熱中症の重篤化を防止する措置が新たに義務化されました。
これにより、屋内外を問わずWBGT値（暑さ指数）が一定以上になる職場では、作業環境の改善や従業員教育など、具体的な対策を講じることが企業の責務となりました。
WBGT値（暑さ指数）とは、熱中症の予防を目的とした指標です。
この義務を怠った場合、労働安全衛生法第119条および第122条に基づき、下記の罰則が科せられる可能性があります。
・個人には「6ヶ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金」
・法人には「50万円以下の罰金」
また、第98条では違反が確認された際に、都道府県労働局長や労働基準監督署長から下記の命令が下される場合もあります。
・作業の全部または一部の停止
・建設物等の全部または一部の使用停止 など
罰則や行政の命令を回避するためにも、適切に対策を講じることが重要です。
▼関連サイト
e-Gov法令検索｜労働安全衛生法厚生労働省｜労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行等について
改正後は「早期発見するための体制の整備」「重症化防止のための手順の作成」「関係者への周知」が新たに義務化されています。
下記の2つを満たす環境で作業が行われる場合は、重篤化を防止するための熱中症対策が必要です。
・WBGT値（暑さ指数）が28度以上、または気温が31度以上の環境
・作業時間が連続して1時間以上、または1日4時間を超える見込みがある場合
工場では作業環境の温度やWBGT値（暑さ指数）を把握し、異常を感じた従業員がすぐ報告できる体制や熱中症に適切に対応できる仕組みを整える必要があります。
▼関連サイト
厚生労働省｜職場における熱中症対策の強化について
熱中症発生による罰則を防ぐためには、義務化されている体制作りが欠かせません。
ここでは、法令遵守のために整備すべき3つの体制を紹介します。
熱中症の重篤化を防止するためには、初期症状の段階で早期に発見・報告できる体制づくりが重要です。
自身が自覚症状を感じたときや、熱中症の可能性がある従業員を発見したときに、報告できるように手順や連絡方法を定めておきましょう。
また、作業員同士で体調を共有・報告できる仕組みを整えておくと、異常を見逃しにくくなります。
責任者による定期的な声かけや巡回の実施も効果的です。
「顔色が悪い」「汗が出なくなっている」といった普段と異なる状態に早く気づくことで、倒れる前に休ませるなど、早期の対応が可能になります。
熱中症の初期症状に気づけたとしても、対応が遅れれば重症化するおそれがあります。
そのため、異常が起きたときに「誰が・何を・どの順に行うか」を明確にした対応手順を決めておきましょう。
緊急連絡網や緊急搬送先の連絡先を設定し、作業の離脱や身体の冷却、医療機関への搬送など、工場の状況に合わせた手順の内容を定めておく必要があります。
あわせて、WBGT値（暑さ指数）が上昇したら休憩回数を増やす・作業時間を短縮するなどのルールも定めておくと安心です。
作成した手順は現場にいる全員が理解し、すぐ行動できるよう周知を徹底しましょう。
明確な対応フローがあれば、現場の混乱を防ぎ、熱中症が重症化するリスクも減らせます。
どれほど体制や対応手順を整えても、現場で働く従業員一人ひとりが内容を理解していなければ、行動に移せません。
定めた報告体制や対応手順を朝礼やミーティング、社内掲示、メールでの通知などを活用して、従業員や関係者に周知徹底させましょう。
また、発症時の報告体制や対応手順だけでなく休憩・給水ルールをポスターや掲示物で可視化するのも効果的です。
定期的な研修やミーティングを通じて、熱中症への意識を高め続けることも重篤化の防止につながります。
熱中症対策を怠った場合に発生する罰則以外の経営リスク
熱中症対策を怠ると、罰金や行政処分だけでなく、企業経営にも深刻な影響を及ぼすおそれがあります。
ここでは、特に注意すべき2つのリスクを紹介します。
企業には、労働者の安全を確保するための安全配慮義務があり、従業員が熱中症になると労災認定や損害賠償請求に発展するおそれがあります。
対策が不十分な環境で熱中症が発生した場合、「予防できたのに対策を怠った」と判断され、民事上の責任を問われるケースも少なくありません。
労災が発生した際には、企業が治療費などの補償責任を負うことになります。
また、労災保険で補償されない分については、企業側が直接費用を負担しなければならない場合もあります。
熱中症による事故や罰則が報道されると、企業の社会的信用が悪化するおそれがあります。
安全管理が不十分な企業と見なされれば、取引先との関係や採用活動への影響も避けられません。
事故による生産ラインの停止のようなトラブルを回避するために、安全体制の整備状況について取引先が重視している場合もあります。
従業員の安全を守ることはもちろん、企業の信頼とブランド価値を守るうえでも、熱中症対策は欠かせない取り組みです。
作業中の体調管理や従業員への教育だけでなく、作業環境そのものを改善することも、熱中症を防ぐうえで欠かせません。
設備面を整えることで、WBGT値（暑さ指数）を下げ、作業効率や従業員の集中力を保ちやすくなります。
罰則リスクを回避するためにも、熱中症を発生させない環境づくりが大切です。
ここでは、工場で実施しやすい環境改善策を紹介します。
屋根や外壁からの熱の侵入を防ぐ遮熱や断熱は、熱中症の予防に効果的な対策です。
屋根や外壁に遮熱や断熱の対策を実施すれば熱の侵入を抑えられるため、WBGT値（暑さ指数）の上昇を防ぎ、作業環境の安全性を高める効果があります。
とくに遮熱は、暑さの主な要因でもある輻射熱に有効です。
遮熱やさん（運営：植田板金店）では、アルミニウムやポリエチレンを組み合わせた遮熱材「シャネリア」を使用した施工が可能です。
輻射熱を約97％カットし、施工後は室内温度を最大15℃下げ、消費電力の削減率が最大45％になった実績もあります。
環境そのものを改善することで、従業員の安全性を高めるだけでなく、空調効率の向上にもつながります。
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換気設備やシーリングファンの導入で空気を循環させる
遮熱対策に加えて、空気の流れを作ることも重要なポイントです。
屋内の空気が滞ると熱がこもりやすくなるため、従業員の体感温度が上昇します。
換気設備やシーリングファンを導入し、空気を循環させて熱こもりを解消すれば、室温の安定化につながります。
空調の冷気を工場内に行き渡らせて、暑さ改善の効果も期待できる対策です。
さらに、風の流れによって汗が蒸発しやすくなり、体感温度を下げる効果も得られます。
このように、空気の循環を意識して、快適な作業環境を維持しましょう。
ビニールカーテンやエアカーテンを設置して空調効率を向上させる
出入口からの熱気の流入も、WBGT値（暑さ指数）を上げる要因の一つです。
ビニールカーテンやエアカーテンを設置することで熱気の流入を遮断し、さらに冷気が流出するのを防げるので、空調効率を高められます。
熱中症の予防効果だけでなく、冷房負荷の軽減にもつながるため、コストの削減のメリットも得られます。
熱中症を防ぐためには、こまめに休憩をとることが大切です。
冷房の効いた休憩室を設け、従業員が定期的に体を冷やせる環境を整えましょう。
また、冷水機や塩分補給タブレットなどを常備しておくことで、熱中症の発生リスクを低減できます。
工場の罰則リスクを低減するために熱中症対策を実施しよう
